門出の門

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「門出という言葉を知っているだろ」
その老人は、唐突に話しかけてきた。
「赤ちゃんにとっては、母胎から産まれ出ることが誕生という名の門出。小さな子供にとっては、成長の節目が七五三という名の門出。学校では、入学・卒業という名の門出。社会人になれば、就職・退職という名の門出。そうそう、結婚という名の門出もあるな。あの門出の門がこれなんじゃ」
老人は、威風堂々とした門を指差した。
「かの有名なフランスの彫刻家、ロダンは『地獄の門』という作品でこの門を表現した。儂は、これからこの門をくぐり最期の門出を迎える。生きている間、あまり良いことをしてこなかったからこの門でも仕方がない。
あんたはまだ若い。自ら命を絶とうとしてはいかん。儂のように『地獄の門』をくぐることになるぞ。本来、門出はお祝いの言葉じゃ。死ぬ気になれば何だってできる」
ふと我に返れば、遮断機の下りた踏切の向こうで列車が走り抜けていた。
その他
公開:19/10/27 06:36
更新:19/12/20 07:53
節目 門出 七五三 入学 卒業 就職 退職 ロダン 『地獄の門』

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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