スクランブルストーリー

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僕は今日、別れを告げるためにここに来た。
ビル群が見下ろす広い縞模様の交差点では、この瞬間も人々がここではないどこかを見ながらぶつかることなく行き交っている。喧騒は静寂。夜は眠らない。

渋谷の町は、今日も寂しい色をしている。

僕はこの町が好きだ。常に笑顔が溢れているのに、それがこの場所に向けられることはない。みんな好き好んで来るくせ、隠しきれないゴミの山を残していくのはなぜだろう。
明るいのに無機質で、騒がしいのに無感情。
この町は、僕と同じだ。だから僕は、この寂しい色をした町を選んだ。
折角別れを告げるなら、一番好きな場所がいい。仄暗いコンクリートのその奥は、この町の、そして僕の感情そのものだ。
僕は今ビルの屋上で、ビル群と共に縞模様を見下ろしている。愛おしくなって、縞模様の真ん中に飛び込む。
これでいい。
一瞬ののち、鈍い音が僕の好きな町に響く。大好きな場所で、世界に別れを告げる。
その他
公開:19/10/26 10:10
更新:19/10/27 15:34

書くことが好き。音楽方面のライターを目指しています。Twitter→@r_dorfer_

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