節芽(ふしめ)

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あれは一人暮らしの友人が「家庭菜園を始めた」と言うので、彼の自宅を訪れたときのことだ。

友人がアパートのベランダで発芽野菜のスプラウトのような植物に水をやっていた。
「すごく熱心だね」
「これは滅多に手に入らない『節芽』という品種なんだ。偶然、ネットオークションで出品されていて落札したのさ」
「『ふしめ』? 随分変わった名前だね」
「『ジャックと豆の木』という童話を読んだことがあるだろ。あの豆の木の芽がこれさ。
この芽は、巨大に生長はしないけれど、それ以上に不思議な力を持っているんだ」
「不思議な力?」
「そうさ。節芽を自分で栽培して食べれば、人生の節目が訪れ、幸運をもたらすんだ」
「『ふしめ』が『ふしめ』をもたらす?」
「そのとおり! 名は体を表すとはこのことだよ」

その後、起業した友人は事業で成功を収め、めでたく独身貴族も卒業して一軒家を購入、公私ともに順風満帆な生活を送っている。
その他
公開:19/10/25 19:51
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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