百日紅と金木犀

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 雨の日は金木犀が強く香るので、僕は気分が塞いでしまう。金木犀は住んでいた団地の小さな公園と、小学校の1年生から4年生までの教室がある南校舎の花壇と、中学校の体育館の北側に生えていたから、晩秋の雨の金木犀の香りは、3歳くらいから14歳くらいまで僕の周囲で強く香って、当時の、具体的にはよく思い返せない記憶から、その当時の感情だけを燻りだして来る。だから、僕は嫌なんだ。
 その点、百日紅は大好きさ。そのつるつるの幹や千切れた手首みたいな枝の先や真っ赤な花。それとサルスベリっていう馬鹿馬鹿しい名前。僕は百日紅を見るたびに、それが夏でも冬でも楽しい気分になる。
 幼稚園の高いジャングルジムの前、小学校の中庭の深い池のほとり、中学校の屋上から見下ろすアスファルトの駐車場。周りにあったどの百日紅の思い出も、散った沢山の花びらが辺りを覆って真っ赤っ赤。僕はその景色の中にいて、とてもせいせいしているから。
青春
公開:19/10/25 16:43

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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