デッドエンドの男

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 前途が瓦礫で埋もれているのが見えた。それでも俺は進み続けた。これまでに通過してきた数々の分岐のどれかを進んでいれば違った展望があったのかもしれない。だが俺は「この先によい事がある」と言った先達の踏み跡を辿ることを選んだ。だが、それは「選んだ」と言えるのだろうか?
 例えば、自分の嗅覚を信じて、自らの手を汚し傷つけて周囲の岩を掘り抜くという選択だったあったはずだ。それだけの熱情だってあった。だが俺はそういうタイプではなかった。前進は惰性となり欲望の対象は夢へと後退した。「ここでこの夢と共に果ててしまってもいい」と思ったこともあった。袋小路。それは俺がこの道に入った時点からの定めだったのか……
 デッドエンド。
 だが、辺りには硫黄の匂いが漂っていた! 俺は精一杯目を凝らす。崩れ落ちた瓦礫の隙間。
 見えた! 洞窟露天風呂の女湯だ。先達の言葉は本当だった!
 俺は、小さくガッツポーズをした。
その他
公開:19/10/25 15:53
更新:19/10/25 15:54
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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