節〆

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『〆屋』と染めた暖簾の影が差す台の向かい、銀髪の店主が、細々した螺子や金具を並べる。拡大用の片眼鏡越し、伏せた眼は暗い。
「では、締めさせて頂きます」
曇り空の声に息をつく。元より話の種に乏しい生涯、伝える事もろくにない。
人生の節目を、きれいに締めてくれる店。噂には聞いたが、実際訪れる事になろうとは。
「本当に、思った通り?」
「お望み通りに」
その『望み』の中身は聞かない。丸ごと読めると言いたげだ。
死別した親、失った家、破れた恋、短く尽きた命。苦労と孤独しか知らなかった。

「お願いします」
店主が私の蓋を開けた。節くれた指が中を磨き、組み直し、巻き上げる。
錆びていた針に輝きを取り戻し、店主は硝子面を拭った。
「戻っておあげなさい、ご主人の許へ」
霊安室の寝台が視界に広がる。辛い事などない様に、いつも笑っていた人の、静かな顔。
最後の門出を待つ間、名前の代わり、繰り返し時を刻んだ。
ファンタジー
公開:19/10/26 10:51

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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