お願いごと

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むかし、ある国の王子とある国の姫がまことにおめでたい結婚をいたしました。
きらびやかな宴が済んで誰も彼も寝静まったその晩、姫は王子に問いかけます。
「ねえ、あなた。」
とても可愛らしいお声。
「ひとつ、お願いがございます。」
王子は、美しい姫を愛おしげに見つめ、「もちろん。」とやっとのことで囁きました。
「もしもこの先、私が先に死んだのならば。」
姫の目は真剣です。
「私はこの世の果てで、あなたが来るまでひたすらにお待ちしています。」
なんということだ。王子はそう思いました。
「そして、もしも、あなたの方が先に死んだとしたら。
すぐに、私のことを連れに来て欲しいのです。ひとりでは、行かないで。」
夜夜中の闇がすぅんと深まったような気がいたしました。
「だって、私にはもうあなたしか、いないのですから。」
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公開:19/10/25 09:04

つゆ

森絵都さんの『ショート・トリップ』が大好きです。

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