さよならモヤイさん

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「なぁ、裏のじいさん」
「なんだい、表の兄ちゃん」
「渋谷で約40年。長かったなあ」
「ああ、そろそろ後任が到着する頃だろう」
「とうとうハチには敵わなかったなぁ」
「いや、でも見てみろよ」
たくさんの人がモヤイを囲んでいた。頭に花輪が被せられる。
「お疲れ様、モヤイさん」「新島に戻ったらのんびりして」
遠くから、ずしんずしんと地鳴りのような音が聞こえてくる。
「新島から後任がやってきたな。そろそろさよならだ」
モヤイはグルグル体を回転させると、花壇から土にまみれた体をズブと引っこ抜いた。
「体があったのか!」
人々が驚く中、後任のモヤイが髪をなびかせながら、息を切らして走ってきた。
「遅くなりました!すみません、新しく渋谷を担当させていただきます!モヤイです!」
後任モヤイは、古株モヤイと握手を交わし、ゆっくりと体を土の中に沈め、首だけ出した。拍手が起こる。
「渋谷は意外とあったけぇや」
その他
公開:19/10/24 20:19

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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