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祖母の箪笥の抽斗に、いつのやら知れぬ古い蝶番を見たのは、初七日が明けてすぐでした。
物を捨てるのを厭う性で、他にも壊れた道具やら、擦れた端切れやら混じる中、手巾に包まれた蝶番は、緑青の浮いた銅色を二つ、半ば翅を畳んでありました。
繋がった翅の左右を雌雄に見立て、番(つがい)と言うのですが、僅かに開きの違うそれらは、二つで一組の夫婦に思えました。
何気なく、螺子の穴を陽に透かし、内側に字の彫ってあるのに気付きました。
一つには祖母の名、もう一つは――
頭上に影が落ち、パチンと閉じる音。
祖父の掌へ握り込まれた蝶番は、そのまま持ち去られてしまいました。
もう一つの名を、私は皮肉にも、その背中で思い出したのです。
祖母は、元は祖父の兄嫁でした。夫が病で身罷り、義弟の祖父へ再嫁しました。祖母の胸中がどうだったかは知れません、ただ、縁とは抗い難いものなのだと、絡め取られた蝶に、私は思ったのです。
物を捨てるのを厭う性で、他にも壊れた道具やら、擦れた端切れやら混じる中、手巾に包まれた蝶番は、緑青の浮いた銅色を二つ、半ば翅を畳んでありました。
繋がった翅の左右を雌雄に見立て、番(つがい)と言うのですが、僅かに開きの違うそれらは、二つで一組の夫婦に思えました。
何気なく、螺子の穴を陽に透かし、内側に字の彫ってあるのに気付きました。
一つには祖母の名、もう一つは――
頭上に影が落ち、パチンと閉じる音。
祖父の掌へ握り込まれた蝶番は、そのまま持ち去られてしまいました。
もう一つの名を、私は皮肉にも、その背中で思い出したのです。
祖母は、元は祖父の兄嫁でした。夫が病で身罷り、義弟の祖父へ再嫁しました。祖母の胸中がどうだったかは知れません、ただ、縁とは抗い難いものなのだと、絡め取られた蝶に、私は思ったのです。
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公開:19/10/24 18:15
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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