殺された春雨

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それはひどい惨殺遺体だった。ところどころで食い千切られ、まるで噛み捨てたかのように。
「これは……無残な」
そう呟いてから、軽く黙祷を捧げた。さめざめと泣いているのは彼の連れ合いだろう。
「お気の毒さまです」
「いえ、お気遣いなく」
きっと顔を上げて、警部の方に向き直る。
「こうなる運命だったんです。彼も言っていました。でも」
「私を置いて行くなんて」
彼女はまた泣き始める。
「もしこの時が来ても一緒だと思ってたのに、どうして」
「だが、あなただけ、残されてしまった」
「そうです!こんなひどいことって」
まるで私はいらないものだったみたい、とまた嗚咽が溢れる。
「そんなことはありません。ホシは必ず帰ってきます」
「えっ」
「おっと、私の出番はこれまでのようです。どうかお幸せに」
現場を、光が照らす。

ずぞぞ、と音がして、残された春雨のスープが刑事の胃袋に吸い込まれていった。
ミステリー・推理
公開:19/10/24 16:51

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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