あの時の音色

料理は芸術だ！と誰かが言った。では聞こう。それは何芸術だ？
絵画の様なもの？音楽の様なもの？それとももっと違うもの？
魔法使いの世界ではその答えがはっきり出ている。料理の芸術とは音楽である。
魔法の杖を指揮棒のように振れば、楽団員のように調理器具が演奏を始める。
優秀な指揮者の手によって導かれる調理は目で、音で、楽しめるエンターテイメントだ。
私は幼い頃、魔女である母の料理をする姿に憧れた。私もあんな風に楽しく美しく料理が出来る人になりたい！
私も母に倣い、魔法と音楽と料理の勉強を始めた。初めから上手く行かないのは当然だ。
私の魔法はぐだぐだで、音楽は不協和音で、結果生まれる料理は失敗作だ。だから何度も練習した。
大人になった今では私もあの時の美しい音色と共に料理を作れるようになった。
私の料理を口にした父は言う。
「美味しいよ。でも見た目は前衛的芸術作品みたいだね」
それもまた母譲りだ。