アンチ・アンツ・ダーク

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「渋谷って、上から見ると蜘蛛の巣みたい」
「そのスカート買うのか?」
「話聞かないなら買わない」
 高校生のヒカリと古着屋の高橋は、名前以外にはろくにお互いのことを知らない。
 古着屋の灯りは古いランタンだった。
 これで色合いやシルエットがまともに分かるものか、とヒカリはいつも文句を言う。
「あれいいね」
 ヒカリが指差したのは、奇怪な形状をした、白黒ツートンのワンピースだった。
「へえ、珍しい」
「ゴスが好きなのかって思ってるでしょう」
「その服をヒカリが気に入ったからって、ゴスが好きとは限らないだろう。それぞれ別だよ、何でも」
「ほほう」

「蜘蛛の巣というより、蟻地獄だな」
「え?」
「さっきの話。渋谷は谷底だから」
「でも、誰も蟻じゃないよ。谷底にしては明るいし」
「明るい処も暗い処もあるから、自由なんだよ」
 だからヒカリはこの店に来る。

 この日は、黒い眼帯を買った。

青春
公開:19/10/22 09:44

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