空に迷う鳥

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「わからないんだ」
鬱蒼とした森を歩く私に、一羽の渡り鳥が、空に迷ったと声をかけてきた。羽根を休める水場を探しているという。
「ここは渋谷。宮益坂よ」
私がそう答えると、彼は木の上で不思議そうにくちばしをとがらせた。
「渋谷なら知ってるけど…」
今は熱帯雨林の東京。再開発を終えた頃から渋谷は緑に覆われて、宮益坂にはガジュマルが、道玄坂にはマンゴーが育ち、今は密林となった。雨季の名残りの朝靄の中、原色の鳥や花が歌い始める時間。
「ここがヒカリエ。坂を下りるとQFRONT。フクラスやストリームもほら」
ホーホー、キェッキェッ。
「君の肩に降りたい」
不意に彼が言ったから、いやじゃないのに断った。
ホーホー、キェッキェッ。
翔び立とうとする彼に、その歌の意味を聞いた。すると彼は、
「生きる意味を教えて」
と私を見つめた。
それから彼は私の目に、ゆっくりと着水した。やさしい木漏れ日のように。
公開:19/10/23 09:40
更新:19/10/25 14:47

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