涙の理由

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時計の針が9を指した夜。
バイトの夜勤に向かうため、気だるい体を無理やり起こした。
静岡から上京して丸2年が経つが、渋谷のセンター街の華々しい雰囲気にはどうしても慣れなかった。
人波をかき分け、渋谷駅近くのバイト先に向かっていると、前を歩く女性のカバンから何か光るものが落ちていくのが見えた。
気になって拾ってみると、きれいな指輪だった。そして、指輪の内側に刻まれている文字を見た。「これはマズイだろ」と呟き、気づいたら走り出していた。

「すいません!」と息の切れかけた声で叫ぶと、女性は早足を止めて立ち止まった。「指輪落としましたよ」と呼吸を整えながら言った。
「えっ?わざわざ追いかけてきてくれたの?」女性は一瞬驚いた顔をしたが、笑顔で応えた。
「ありがとう。でもね。この指輪私にはもう必要ないの」と女性は言った。
「でもこれ。結婚指輪ですよね?」と言うと女性は突然泣き崩れてしまった。
その他
公開:19/10/23 03:01
更新:19/10/30 00:11

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