鏡の魔女

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「こんなものが自分なはずがないだろう!」
 男は声を荒げて、目の前のばけものを殴りました。ばけものは泣いています。けれど、男は立ち去ってしまいました。
 しくしく。悲しげな泣き声は止まりません。
 ばけものは、魔女でした。彼女は、生まれつき目の前の相手のこころの姿を写し出すちからを持っていたのです。しかし、彼女の元を訪れる人間は、彼女をばけものの姿にしてしまうのでした。
 ばけものはしくしくと泣いて、ついに住んでいた屋敷から逃げ出しました。
 走って、走って、走って。転びました。
 目の前にあったのは、美しい花でした。
「おまえのように生きられたら、よかったのに」
 花がそよそよと魔女にささやきます。
「どうして泣いているの?」
「わたしがみにくいからだよ」
「……そんなにもきれいなのに?」
 魔女ははっとして自分の顔に触れました。久方ぶりに触れる肌は、やわらかな、人間の肌をしていました。
ファンタジー
公開:19/10/20 16:24

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