ハチ公、旅に出る

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「ボクを可愛がってくれた人間の皆さん、本当にどうもありがとう。
94年、待ちました。だけどご主人様は帰ってきません。動かないせいで体の節々が痛いし、お腹はもうずっと空いていて喉も乾きました。クレープ食べたいし、タピオカドリンクも飲んでみたいです。
それにボクは今、恋をしています。
彼女はご主人様は天国にいると教えてくれました。ここで待っていてもご主人様は帰ってこない、そう彼女は言いました。ならばもうここに留まる意味はないのです。
彼女とは誰かって?それは秘密です。彼女はとても恥ずかしがり屋さんなのです。すごく心が美しくて優しい人です。
彼女と一緒に、天国という場所にいるご主人様を探しに行きます」

ハチ公は数日後、闇のオークションで見られたのを最後に、消息不明になった。彼はただずっと、ご主人様に会いたかっただけなのに。ハチ公は渋谷の109は知っていても、110は知らなかったのかもしれない。
その他
公開:19/10/20 15:51
更新:19/11/07 20:13
渋谷

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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