春告げ鳥

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「桜の咲く頃に東京で会おう!」
まだ1月下旬の卒業式で、彼は晴れやかに言った。

東京の名門私大に合格を決めた彼なりのエールだろう。有頂天とはこのことを指すのだ。
国公立の二次試験は2月下旬。私の本番はこれからだ。

かねてから東京の大学が第一志望だった私にとって、彼は数少ない同志であった。
浮き足立つ彼を横目に、教室へ駆け足で急いだ。

「東京で桜なんか咲かんわ」
さっきの言葉が、妙に苛立ちを募らせた。

ふと立ち寄ったCDショップで、90年代のヒットソングが流れている。暫く音楽から離れていたせいだろう。知っているはずの曲がすぐに思い出せない。

買ったばかりのセイコーで時間を確認した。
約束の19時。心拍数が微妙に上昇している。

見覚えのある秋田犬の周りは、賑わいを見せている。信号が青に変わり、人々が一斉に動き出す。

「長く待たせたな」
淡桃色のカーテンはこの街を確かに彩っていた。
その他
公開:19/10/21 10:24
更新:19/10/21 11:33

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