古蛾昆虫店 (03)

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──何か御用ですか?
青ざめた江戸小紋を着た女性に声をかけられた。私は随分と店の前に立ち尽くしていたようだ。彼女も風呂敷を抱えている。
「あ、あの……店長さんは」
──先代は、亡くなりました。代りに今は私が。
「……そうでしたか、お悔やみ申し上げます。貴女はお孫さんかな? 私は先代にご迷惑をおかけした者で、その、謝罪と申しますか、償いに伺ったのですが。……お亡くなりに」
──償うも何も、こうして還しに来て下さったじゃありませんか。
「え……?」
彼女は腕の中の風呂敷を私に見せる様に傾け、云った。
──蝶は来た道を還るよう、定められているのです。
──確かに承りました。
         *
気がつくと宮益坂とは反対の改札側、華やかな雑踏の中に佇んでいた。
風呂敷は無くなっていた。
空を仰ぐと、青い蝶がゆらりと天高く飛んでいくのが見えた。

──噫。彼女も私も、漸く元の世界に還れるのだ。
その他
公開:19/10/19 12:03
更新:19/10/19 16:57

椿あやか( 猫町。 )

【椿あやか】(旧PN:AYAKA) 
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◆第18回坊っちゃん文学賞大賞受賞
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【note】400字以上の作品や日常報告など
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