赤田んぼ

「赤い田んぼが見れる」
俺は知り合いにそんな話を聞いた。
そいつによると、ある村の田んぼで赤い稲が植えられた田んぼが見れる、とのことだった。
赤い稲穂が秋の夕焼けと同化するその光景は、とても美しいらしい。
ただ、そいつも実際には見たことがなく、あくまで噂だった。
俺はその話を聞いてピンとくるものがあり、こうしてはるばる村を訪れたのである。

村の若者に案内され林を抜けると、目の前には開けた土地が現れた。
と、同時に田んぼの上空に無数のトンボを確認した。
今では珍しい赤とんぼが田んぼを覆い隠すように飛んでいる。
夕焼けを背景に何匹もの赤とんぼが飛ぶさまは、胸を打つものがあった。
「最近は噂が形を変えて届いてしまうので、面白半分でくる人が多くて困ってたんですよ。でもあなたは違うみたいですね」
俺は一度ゆっくり頷くと、視線をトンボに戻した。