ナイトダイバー

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そろそろ満潮の時間だ。ぽっかりと浮かんだ月から、さらさらと白い光が降り注いでくる。

ここ渋谷は、寒流と暖流がちょうど混じり合う潮目で、生息種の多さでは世界有数のスポットと言われる。だからダイバーは世界中から集まるが、俺が好きなのはそんな賑やかさが去った後の渋谷だった。

バディは連れず、ひとりきり。雑居ビルの外階段からバックエントリーすると、いつものケーブに向かう。

またアイツ、来てるかもな。投げやりな期待を胸に潜行すると、渋谷の底がキラキラと光って見える。ほら、予想通り。名前も知らない。約束なんかしてない。でもたぶん、お互い気にはなっていて。

俺は右手の親指を立て、浮上のハンドサインを送ってみた。するとアイツは、親指で自分の首を掻っ切って下に向けた。一瞬のあと、俺たちは同時に吹き出した。

あぶくの塊がゆらゆら立ち上っていった。潮がひき始めた公園通りで、朝の猫が大きなあくびをした。
ファンタジー
公開:19/10/20 00:21

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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