6
8

 狗神……
 若者の集団暴徒化の説明として、これほど説得力を欠くものはないだろう。だが男は狂乱のスクランブル交差点の中央を指差してそう言った。男は陰陽師だ。
 呪は認めません。陰陽師とは天文学、地勢術、本草学、心理学の統合術ですから。ところでご存知ですか? 狗神……
 犬を首まで埋めて餓えさせ苛め抜いた断末魔、ようやく与えられた水に目いっぱい伸ばした首を刎ね、大勢が踏みつける辻に埋める呪法だろ。
 呪ではありません。あれは「草」の胞子です。痩せた土地に埋められた生首に繁殖する粘菌の一種で、ほらあそこ。噛み捨てられたガムだが? 胞子嚢です。路上の皹を菌糸で満たし胞子嚢はゴミにくっついて移動する。胞子を飛ばすためには「振動」を利用する。撒き散らされた胞子は脳に入り、群れさせ暴徒化させる。振動のためです。だが誰が? 誰でも。あなたでも。陰陽師は会釈して立ち去った。路上の軽トラックが炎に包まれる。
ホラー
公開:19/10/19 14:29
更新:19/10/19 17:21

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容