涙のペンダント

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ずっと思っていた。こんな関係は不毛で、誰も幸せになれないと。夜のバーから見える光の渦、行き交う他人たち。
「別れよう」
私は胸元のペンダントを握りしめながら言った。
「どうして?」
彼はこの期に及んでもそんなことを言う。こんな男でも心から愛していた。
「もう愛していないから」
嘘だよ、気づいて。彼は「わかった」と席を立つ。行かないで。涙が溢れるように、ペンダントがじわじわと溶けてゆく。
「大丈夫ですか?」
マスターが私に声をかけてくれる。
ペンダントはこのお店で作ってもらった。対価は銀貨1枚。恋心を結晶化して作る、願いを叶えるペンダント。私は彼と別れる勇気が欲しかった。
「お別れでよかったのですか?彼をあなたのものにすることも出来たのに」
「いいんです」
私は濡れたてのひらを見る。照明に反射して優しく光った。どうか、幸せに。
「ギムレットを下さい」
来月、彼の家庭には新しい命が生まれる。
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公開:19/10/17 13:39

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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