ある作家の創作について:interview

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言葉で表現できなくなったとき、音楽が始まる――

古びた深い緑色のコーデュロイ・ソファに座る小説家が僕に言った。
「ドビュッシーの言葉さ」
そういうとマールボロに火をつける。ほこりっぽい部屋に煙が馴染んでいく。
「素敵な言葉ですね。先生の創作活動と、結びつきがあるのでしょうか?」
彼は彼の文体の特徴でもある、ゆっくりとした間をあけて、煙草を吸い、口を開いた。
「私にとって物を書くとは、そんな音楽を言葉で表現するということなんだ」
「つまり、表現方法の違いということですか? 言葉で言い難いことを音楽で表すか、物語として文章で書きだすかという」
彼は灰皿に小さくなった煙草を押し付けた。
「ドビュッシーの言う通り、始まりは音楽だったんだ。言葉はこじつけにすぎない」
彼は正面にいる私を見ていたのか、吐き出した煙の中で何かを見つけたのか、目を細めて微笑んだ。
「ただ書きたいから書く。それだけだ」
その他
公開:19/10/18 17:39
更新:19/10/21 22:12

冨田亮太( 東京・埼玉 )

雰囲気重視。

 

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