Holy Shit

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 かすかな焦慮が俺を目覚めさせた。ベッドを降りるとき、隣で裸の女が「お父さん」と寝言を言った。服を着て、コンビニで買える最も高額なプリペイドカードを女のスマホの上に置いてホテルを出る。それは海外で財布をすられたという息子からラインで頼まれて購入した二枚のうちの一枚で、1枚目の番号を息子に送ったところで店員が「それ詐欺っすよ」と教えてくれた。息子は本物だったが、スリにはあっていなかった。
 「お父さん」か。東京の駅名の下には見えない文字で対象年齢が書かれている。俺はとっくに渋谷の対象年齢を外れていたが、まだ渋谷にし残した事があったのだ。
 午前4時。温度を失った青白いスクランブル交差点。
 この世に奇跡はなく、ただ確率があるだけだという。それでも俺は今朝の奇跡を信じたかった。中央部で尻を丸出しにしてしゃがむ俺を見咎めるものは誰もいなかった。
 「お母さん」俺はこれでようやく渋谷を捨てられる。
青春
公開:19/10/18 09:25
更新:19/11/03 10:00
渋谷

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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