幸せの循環

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 「はぁ……」
 私は聞き逃さなかった。それが耳に届いた瞬間、全身が打ち震えた。
 「――佐々木さん佐々木さん、溜息をついたら幸せが逃げちゃうよ」
 これは最近言いたかった台詞。故にこのチャンスを逃すはずがなかった――!!
 願いが叶って渾身のガッツポーズを決め込む私の肩に佐々木さんが手を置いた。
 「どうしたの?」
 「あれを見て」
 佐々木さんは小さな声で呟くと、どこか遠くを指さしている。
 指し示された方へ視線を向けると、誰かの家の庭先に撫子が咲いているのが見えた。
 「奇麗だね~」
 「そう、奇麗。だからいいの」
 「ん?」
 「呼吸よ。だからいいの」
 「……そうなんだ~」
青春
公開:19/10/18 00:02
更新:19/10/18 00:06

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