水面下の網

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キャバクラで働くようになって30年になる。
店長は25才の青年。キャストは20代がほとんどで、下は18から上は35まで。ホールを担当するボーイは私を含めて5人いて、私以外は皆アルバイトだ。私は52才のボーイ長。送迎のドライバーが辞めたときなどは代わりをするし、店長が採用に乗り気でない女の子の面接もする。
昔なじみは誰もいないし、仲の良い人間がいるわけでもない。キャストも客も他のボーイたちも、私を下に見ているのがわかる。一見すると残酷なようだけれど、私はこの仕事を辞める気はない。
この店はある国の大使館が秘密裏に経営に関わっている。また別の国の工作員がキャストとして働いてもいる。全容はわからないが、この小さな店の中で、極東アジアの、水面下での攻防が行われている。
鳴門海峡を泳ぐ鯛はその激しい潮流に揉まれて骨が折れているという。
私は足立区の鯛。
50分4千円ポッキリ。
客引きだってするさ。
公開:19/10/16 11:48

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