夜の紫外線

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夜道にて、シロナガスクジラとすれ違った。
そんなのは夢だった。あるはずがなかった。この街では馬だってウサギだって人権を持っているけれど、魚類に人権はない。渋谷とは違うのだ。
それにいくらこの街でだって、水中の生物は陸上では生きられない。よって夢であることは明白だった。
シロナガスクジラは哺乳類だ。皮膚と臓物を車道の上に垂らし、こちらを見ている。
彼らに人権があるかなど、私には関心のないことであった。
このままでは車と衝突してフロントガラスを突き破り、運転手も大怪我をするかも知れない。
或いは若者の集団が、引き裂いて、地面に叩きつけて遊ぶかもしれない。そうなれば次の日にはアスファルトに引きずり歩いた跡が残っているだろう。
そこまで考えた。でも、何もしなかった。見られている。気がしただけだ。垂れ下がった肉の間に埋め込まれた不気味な目は、何も写していないのかも知れないし、そもそもこれは夢なのだ。
その他
公開:19/10/17 03:50
渋谷 渋谷ショートショートコンテスト 田丸雅智 TSUTAYA

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