フシクイ

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夜の虫に混じり、ひぃぃ、ひぃと、笛が尾を引く様な音がする。
祭りの神楽は過ぎた。気に掛かって村の長老格に尋ねると、
「そりゃフシクイじゃが」
さも当然の口ぶりで片付けられた。
「雪の渡りもんで、桜時分に去んでしまう。まめに聞かん方がええ」
よそ者には関係ないと言わんばかり。これだから在郷は。妻が望んだ転居だが、やはり俺の性に合わない。

「放っとけば?たかが鳥でしょ」
妻の返しも冷たい。湿地の水草を食べる、ヒシクイという渡り鳥がいる。その方言だというのが妻の見立てだ。
冷たい理由は、俺が妻の誕生日を忘れたせいもある。俺の方はろくに祝ってもらった覚えがないが。もうすぐ8年。いや9年か?まったく結婚なんてするもんじゃない。


あぁ、また鳴いている。笛よりも、近頃は女の声に聞こえる。夜の独り寝には毒だ。まったく、こんな所になぜ引っ越した。
今日は何かの記念だった気もするが、それも思い出せない。
ホラー
公開:19/10/16 22:23
節喰(フシクイ) 菱喰(ヒシクイ)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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