こんな顔

「聞いてくれ。今とんでもない奴に会っちまった…」
そう言って座った人間にバレないよう、ぐつぐつ煮えるおでんを見下ろしながらほくそ笑んだ。口のない顔で。
俺の仲間が、目も鼻も口もない顔の化け物に化けて先に路地裏で人間を化かす。
驚いた人間がこの屋台に逃げ込んできたところを、俺が更に驚かす手はずになっている。
「それって、こんな顔でしたか?」
俺は徐に顔を上げた。
「いや。目はこうで、眉毛がこうで…」
サインペンを取り出し、俺ののっぺらぼうフェイスにパーツを描き出す人間。…何故ビビらない。
「できた!そうそう、こんなんだったよ。じゃあね!」
串のおでんを食べながら去っていく人間。食い逃げ…
ツッコむ気も失せて鏡を見たら、かなりのイケメンが映っていた。
「とんでもない奴」ってそういう意味か。あの人間絵うまいな…
つーか、仲間、化けるの失敗してるじゃん…
なんかもう、ひたすら脱力した一日だった。