明日香

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「明日の香り」
不思議な事を言うと思ったのです。
冬の水仙の頃。春の沈丁花の頃。夏の梔子の頃。離れの座椅子に掛けたまま、濡れ縁を通り過ぎる陽射しに背を向けて、思い出した様に呟くのです。
それは決まって、初花の日ではなく、そろそろ盛りも過ぎよう時分でした。
(先月から咲いている)
私はつい、口を挟みたくなったものです。音と手応えが好ましいと、文机に墨を磨りながら、書く気のない料紙と小筆を並べて。光を映さない瞳は、机でも私でもなく、畳の縁にありました。
「剪って参りましょうか」
尋ねても、緩く頭を振るだけ。用事が済んで、外から木格子に錠を下ろし、閉めた板襖を、いつも一寸ばかり開けておきました。
「……明日」
秋の丹桂の頃、珍しく見頃に言い出したので、返って驚きました。
「ええ。丁度今……」
「明日、散る香り」
胸が堰かれ、私は格子の境に立ち竦みました。
床に流れた髪が、嵐の兆しにそよぎました。
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公開:19/10/13 22:07
座敷牢のラプンツェル

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。

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