肩幅さん

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終電を逃して拾い乗ったタクシーが麹町の日テレ通りをのぼってゆく。
酔い醒ましの風がほしくて初老の運転手さんに窓を開けてもらうと、ふっと金木犀の香りがした。
「少し降りていいですか」
「気持ち悪いの?」
困り顔をした運転手さんに、
「金木犀を見つけたくて」
そう言うと、メーターを止めた運転手さんが「私も見たい」と笑った。
父娘のような私たちは人通りのない麹町の住宅街を並んで歩いた。
星がきれいだと言いそうになったけれど、それだとデートみたいだから遠慮して、静寂の中、金木犀を探し歩いた。
すると坂の上のマンホールがカタカタと音を立てて、地面が揺れはじめた。
悲鳴をあげた私に運転手さんは、
「大丈夫。肩幅さんだよ」
と優しく言った。
マンホールから顔を出した肩幅さんは、私たちに気がつくとすぐに顔をひっこめた。
「彼、金木犀が好きだから」
深夜の東京。肩幅が広すぎて地下で生きる彼にも秋がきた。
公開:19/10/15 11:43
更新:21/09/10 15:28

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