手編みセーター

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「編んだんだよ!」
朝。兄が押し付けてきたのは真っ青なセーターだった。
私に避けられているのを最近ようやく自覚したらしい兄は、よくこうしてご機嫌を取ろうとしてくる。
無視しようとしたが、「着てみて!」とやかましい。渋々自室で着てみた。
何で出来ているのか分からない線維は、一本一本が妙に太めで肌にちくちく刺さって、着心地は良くなかった。
けれど、温かかった。まるで誰かに優しく包み込まれているようだった。
「どう?」
背後のドアの外から、兄の声。
「うん、悪くない」
「そうかあ、それは良かった」
久方ぶりに聞く、兄の嬉しそうな声。
「それ、俺の血管で作ったからさあ。まだ脈打ってるのかもしれないなあ」

心が凍りついたまま、一時間ほど経過した。
温かいというより生温かくなってきたセーターを脱ぎ捨てたいのに、体が動かない。
あれから、兄の声は聞こえてこない。物音もしない。
後ろは、振り向けない。
ホラー
公開:19/10/15 00:34
ホラー 手編み セーター

PURIN

超ド級の素人です。他サイト様でも書かせていただいています。
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