王手

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漸くこの日が来た。

念願叶って将棋名人戦のタイトルが取れた。もう何も望まない。

この10年間、俺は生活の全てを棋力向上に傾け、それ以外のことから目を背けた。

だがそれも昨日まで。今日からの俺は違う。

10年間待たせた目の前にいる彼女をこれからは幸せにする。それが俺の新しい願望だ。

今、俺と彼女の間には将棋盤がある。これから俺は最後の一手をここに打つ。

これまでの人生に区切りをつけ、二人で歩む人生の始まりの一手を俺は心を込めて打つ。

「王手…」

俺は彼女の顔を見た。目線が合った。

「………妻取り」

俺は手を棋盤から放す。彼女の目線がそこに向く。

「10年前に買った。渡すのは今日になっちまったけどな」

最後の駒は指輪の入った箱。


彼女はニッコリ笑って…






「まいりました」







頭を下げた。






チキショー!負けたのは俺だ。嬉しいけど。
その他
公開:19/10/12 18:02

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