修行中の身

秋になると必ず見る夢がある。
ズワイガニ漁が解禁になったニュースを見ながら、どうか祖父が水揚げされませんように。そう願う夢だ。漁港のセリ場にカニの祖父が並んでいないことに安堵して、私は目を覚ます。
どうしてこんな夢を見るのだろう。
私は禅寺の僧侶。ズワイガニは食べない。祖父は先代の住職で当然カニではない。今の住職である父も普通の僧侶だ。
バカげた夢だから人に話したことはなかったが、父が同じ夢の話をしたものだから私は驚いた。父もまた、祖父がズワイガニという夢を見ていた。
私は寺の古い文献を調べた。
今は高台にある寺だが、江戸の中頃までは海辺にあったらしい。地震による津波で本尊が海に流されたという記述もある。
そうか。本尊の千手観音が海で繁殖しているんだ。
私は漁師たちにカニ漁を中止するように強く迫ったが、腕をへし折られてしまった。折られた腕からは赤いものがにゅるり。
私の、まだ修行中の身だ。