いか焼の女

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『前略、圭一様。
突然の手紙で驚いているかと思います。ごめんなさいね。
二年前からここのビーチの屋台でイカを焼いて生活していま
す。あんなに嫌ってた家業で食べてるとか笑えますよね。
先日、知人が流れ着いた幟を持って来てくれて震災のことを
知りました。私、ネットもテレビも見ないから。ひどかった
みたいだけど、とにかく生きていて下さいね。
ではくれぐれもお身体を大切に。
 2011年9月23日 サンディエゴにて  とし江』

 24年間音信不通だった母からの便りだった。投函されてか
ら1年半。やっとたどり着いたそれには色褪せた幟の写真が
同封されていた。恨んだ時期もあったが今となってはたった
一人の肉親である。こみ上げてくる気持に背中を押され筆を
執った。
『お母さん。ご連絡ありがとうございます。ご心配おかけし
ましたが、その幟はうちのではありませんので返送はご無用
に願います。  圭一 拝』
その他
公開:19/10/12 18:38
更新:19/10/13 23:11

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