千本鳥居(スリット)

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 奥の院までの往復の路に朱色の着物が一人もいなかったのは、やはり、朱色の光の中に朱色を着て入ると消えてしまうからなのだろうと考えながら、インスタ映え勢の邪魔にならないよう、鳥居の天辺を静かに歩いていて、縦格子の内側の絵を左右へ適度にズラすと絵が変わる玩具を思い出した。象と虎。ビキニとヌード。夏と冬。鳥居の下を歩く人々も同じで、スリット内を移動するたびに、人外の姿を露わすところがおもしろい。
 千本鳥居をドローン空撮で上から写している中を、全速力でダッシュすると、入口から出口までの全てのスリットに、走っている人の体が映り、走っている人の時間は少し遅れるのだという。スリットというものは光を細切れにするので、いろいろと常識外のことが起こるのだそうだ。
 千本鳥居内での迷子や失踪は、たいていこのスリットの作用で説明がつく。時空を平坦な連なりだとする古いモデルで千本鳥居を説明することは不可能なのだ。
ファンタジー
公開:19/10/09 13:01

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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