千本鳥居(奈良線)

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 東福寺で京都大学図書館の天体物理学の本を読んでいる女の子を乗せた奈良線は軒先を掠めながら速度を落とし、向かいのベンチシートのインド系のバックパッカーの剃毛された脛に朱色の日を反映させている錆びたトタン屋根からの赤橙色をキャリーケースの黒にくっきりと映し出したまま、鳥居の真ん中へ停車した。
――東福寺稲荷間の朱色の破損遮断棒交換までしばらく停車します。
 僕は体を捻って背後の窓外を眺めたが、むっちりとした鳥居のどこにも隙間はなく、体を捻り戻すと日焼けした欧米人達の手が窓にビタンビタンとどこまでも続く下で、京大生が馬蹄形宇宙図版の虜となって朦朧としていた。結局、その血走った目と、その図版と、その上気した頬を写し込んだ度の強い彼女のメガネレンズの褶曲が、奈良線を稲荷駅へ誘ったのだった。
 僕はなんだか恐ろしくなって、京都-稲荷150円の切符を捨てて跨線橋を上ったが、鳥居の終わりは見えなかった。
ファンタジー
公開:19/10/09 12:19

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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