雨の夜

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 雨の夜である。
 男が一人、柳の下で途方に暮れて濡れている。
「お困りでしょう。こっちへいらっしゃい」
 見れば、小さな家の窓から女が手招いている。
 男は女に誘われるまま、家に上がった。
 女は手拭いと着替えの浴衣を出した。男が躊躇う様子を見て、死んだ弟のだと女は笑った。
「風呂も沸いておりますよ」
 体の芯まで冷えていた男は湯を借りることにした。
「お湯加減はいかがです?」
 外から女の声がする。
「ゆっくりしていって下さいな。この辺は人を化かす獺が出ますから、夜出歩くのは危のうございます。ええ、通りがかった人を化かして溺れさせるんだそうです。おや、そんな急に出ようとしなくても。私は獺じゃありませんよ。どうぞ心配などなさらず、しっかり温まって下さいな」
 女はそう言いながら女は薪をくべ、火を吹いた。
 どんどん燃やした。
 やがて煮えたぎった湯の中に、大きな獺が一匹浮いた。
 

 
ファンタジー
公開:19/10/09 22:38

堀真潮

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