dear 2/2

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 ……こいつは、これから長い付き合いになる。紅児は直感した。そして今、現実となって那捺の背を見ている。
 傷もなく、ほどよく鍛えられた綺麗な背中だ。項のあたりにほくろがあることを、本人は知らないだろう。
「あー、そうだっけ?」
「些細なことだ」
 俺だけが、覚えていればいい。
 夕日がかかるには少し早い陽光。強すぎた春一番。那捺の細い髪が、はらはらと解けて綺麗だった。
「些細じゃねーよ。俺も、忘れたくないの」
 煙草を灰皿に押し付けた指が、容赦なくデコピンをした。痛い。
「紅児、好きなんだろ、俺のこと。俺はな、その十万倍好きだ」
 そうして那捺は、歯を見せて大きく笑った。
「なあ、キスしろ」
「百万倍ねちっこくてもいいか?」
「じゃあ俺は千万倍しつこくする」
「馬鹿か」
 全身でじゃれあって、子どもみたいに笑いあって。
 これからも、俺たちは生きていく。
青春
公開:19/10/09 21:31
アイドルバンド

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