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「最初から好きだった」
 紅児が囁いた。夜の闇に溶けて消えそうな声だった。
 ベッドの縁で煙草をふかしていた那捺は、意味が理解できなくて首を目一杯紅児へ向けた。その拍子に灰が太ももに落ちた。
「あっちっ……何だって?」
「何度も言わせることばじゃないだろう」
 那捺は目がいい。スタジアムのスタンドから、バンドマンの汗が零れるのを見つけられるほど。その目が、闇の中でもしっかりと紅潮している耳を捉えた。
 ということは。聞き間違えではないのだろう。
「最初っていつだ」
「おまえのインタビュー記事のやつより前だ」
「???」
「……TMGEより前。声、かけてくれただろ」
 ――おまえ、音楽聴くの?
 HRが明けてから、紅児はイヤフォンをさした。そのまま出ていこうとするのを、目敏く見つけたのが那捺だったのだ。
 際立った個性はない顔。だが、少年と呼ぶにはぎらつきが目立つ瞳は、薄く緑がかっていた。
青春
公開:19/10/09 21:29
更新:19/10/09 21:31
アイドルバンド

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