雨の独り言

3
5

俺の母は番傘をこよなく愛していた。俺が子供の頃、雨が降ると童謡みたく迎えに来てくれた記憶がある。
俺は変わった傘で迎えに来る母にむず痒さを覚えながらも、番傘を持つ母の美しさが大好きだった。
そんな母も歳を取り、傘を持って外に出ることが少なくなった。
番傘は俺の手に馴染まなかった。俺が使うと文句でも言うように肩に雨水を落としてくるのだ。
だから母が亡くなった時、番傘は倉庫の奥にしまい込んだ。もう使うことはないだろうが捨てる気にもなれなかった。
そんな俺にも子が出来、気付けば孫が出来ていた。
孫娘は目に入れても痛くないと言うのは本当だ。本当に可愛い。
孫娘が倉庫の奥からあの番傘を引っ張り出してきた。欲しいというものだから勿論くれてやった。
番傘の奴、孫娘が握ると朱色になってまるで新品みたくなった。
そう言えば母が言っていたな。番傘とは別名つがい傘。
男傘であるこいつは新たな番を見つけたようだ。
公開:19/07/02 18:50
更新:19/07/02 19:19

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容