病室の猫

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あと、もう少しだ。
病室の窓から向かいのマンションが見える。その窓から、いつも一匹の猫が私を見ていた。
いや、私を見ていたかはわからない。ただ外を見ていただけかもしれない。そんな気がしたのだ。
私は見守られている気がした。
そんなはずはないのだが、時折、病室内に猫の気配を感じた。足元に丸まっていたり、柔らかい身体を擦り付けてくるような感触もあったが、それは決まって眠っている時で、私は夢現の中にいた。

その日、私は空気を求めて喘いでいた。とても苦しく、もう死ぬのだなとわかった。看取る家族は誰もいない。ただ、いつの間にかあの猫が私の枕元にいて、苦しむ私の顔をジッと見ていた。
心臓が動きを止めると、魂は身体から自由になり、私はやっと苦しみから解放された。
猫はいた。ふわふわと浮遊する私の魂に飛び付き咥えた。
どこからか、たくさんの猫がやって来て、私の魂は引き千切られ、猫の腹の中で無になった。
その他
公開:19/06/30 12:12
更新:19/07/09 14:34

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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