クリップ・バランス

「アタシもう、長くないから」
魔女友のマナが、穏やかに微笑んで差し出したのは、バラを象った髪留めだった。
バッサリ切ったものね、髪も旦那も。バツ付けさせた元凶が、断らないよね、というトゲをひしひし感じる。私も笑って髪留めを受け取った。
「素敵ねありがとう大事にするわ」
瑪瑙風の骨細工。バラで睨みを利かせるコウモリの目玉。噛み合うクリップの先はヘビの牙。私の趣味じゃない。
「ケイちゃんに、とっても似合うと思う。付けて見せて」
「良いわよ。お化粧室で付けてく」
「今。ここで。付けて♡」
必死ね痛々しい程。見え透いてるんだけど、本音やら魂胆やら色々。目玉には精神錯乱魔法。金具から飛び出す針も、毒サソリの尻尾よね。
「……ごめんなさい、彼から杖着信。今日はドレスの仮縫いなの。招待状に、変換呪文を添付するわ」

物証十分。これはバラバラに解体して、魔捜研に回そう。
マナったら、私の本職知らないのね。