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「あじさい~、あじさい」
「こんにちは、紫陽花ですか」
「やあ嬢ちゃん。そう思うだろう?」
リヤカーの蓋をめくると、そこにはぎっしり紫陽花が詰まっていた。しかしおじさんは自慢げに笑う。
「これは味菜ってね。ただの紫陽花じゃない。試しに、食べたい野菜はあるか?」
「野菜?うーん、じゃあ、トマト」
「ほいきた」
おじさんは腕まくりして、トントン、と紫陽花を刻み始めた。途端に、切った側から赤い実に変わっていく。
「何これ?」
「ははっ、だから味菜。欲しい野菜を念じて切るだけで大変身さ」
食べてみな、と言われて恐る恐る赤い実を口にする。それは確かにトマトだった。
「これ、ひとつください!」
「毎度あり。あと気をつけてほしいんだがね」
「何ですか?」
「切ったら早めに食うんだ。作り置きなんてするんじゃないぞ」
「え?」
「そいつぁ、ちょっとしたシンデレラでな。時間が経つと元の紫陽花に戻っちまうのさ」
ファンタジー
公開:19/07/01 13:56
更新:19/07/01 13:58

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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