猫寺

こいつとは儂がこの寺に住み込みで修業し始めた時からの仲でな。
こいつと来たら猫の分際で儂の隣に座り、師匠が経を読み始めるとシャキッと背を伸ばし、まるでいっぱしの修行僧に聞いていた。
師匠はよく言ってた。「このままでは猫に和尚の座を取られるかもな」って。笑い事ではなかったよ。
とはいえ、さすがに猫に和尚の座を与えてやることは出来ない。
そこで師匠は猫に和尚ではなく師匠の座を与えてやった。
猫はそれ以来、より一層修行に励むようになった。

それがもう６０年ほど前の話か…今ではあの猫も立派な猫又になったよ。
なに、恐れることはない。猫又とは別名・五徳猫とも呼ばれている。
この寺で修業を積んだこいつは、正直儂より得の高い僧侶になっているだろう。
その証拠に見てみろ。多くの猫が「シショー！」「シショゥ！」と鳴きながら今日もこの寺にやって来る。
今では人間より猫の方が多く修行に訪れているよ。