帰ってくる子

8
7

 毎日、送り出した子とは別の子が帰ってくる。
 その子も、私を見て「おばちゃん誰?」と怯える。無理もない。私が不安な顔をしているのがいけないのだ。
 私はスーパーの精肉コーナーでは「橋爪さん」と呼ばれているし、大学だって出ている。
 帰ってくる息子だったり娘だったりと、当たり障りのない探り合うような会話をし、戻ってきた夫には「なにをしてるんだ」とか「警察を呼ぶぞ」とか怒鳴られる。だから私は、一晩がかりで一生懸命に説明をする。分からない事は分からないと正直に話す。泣く。傷つくし、傷つけることもある。
 すると翌朝、みんな静かにご飯を食べて、「行ってきます」と家を出て行くのだ。私は掃除と洗濯とをすませてパートへ出かける。買い物を済ませて、戻ってくると、また鍵を忘れている。忘れっぽい性格なのだろう。
 なんとか家に入って風呂の用意などをしていると、また、送り出した子とは別の子が、帰ってくるのだ。
ホラー
公開:19/06/28 14:39
更新:19/07/04 19:47
書き出しだけ大賞 二期

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容