アイスミラージュ

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そのコンパクトは、蛤の形をしていました。
精緻なクリスタルガラスに細氷が舞い、仄かに透ける銀の鏡は、水面の反射の様に揺らめきます。これでお化粧したら、白雪姫の肌になれるに違いない。そうっと手を伸ばすと、
「およしなさい」
棚の奥で、ひび割れた声が響きました。

「それは氷の蜃気楼。開けば極寒の霧に迷う」
肘掛け椅子を押して出て来たのは、子供でした。
雪の肌。豊かな黒髪。艶やかな紅唇。寂れた骨董屋には不釣り合いな、童話の白雪姫そのままに美しい少女。
だのに、声は捻じ曲がり、ぜいぜい喘ぎ、老婆のごとく醜いのです。白雪姫の皮を被った魔女の声でした。

私は店を出る顔で、コンパクトを鞄に忍ばせました。魔女が勘付く様子はありません。十分に離れた後、物陰で蓋を開きました。
たちまち辺りは霧に包まれ、前も後ろも判らなくなりました。寒さに震え、凍り付いて行く私を、霧の向こうから、ひび割れた声が嗤いました。
ファンタジー
公開:19/06/28 00:01
アクセサリー・シリーズ⑤

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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