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祖母が遺した指輪は、少し緩かった。
金環に切れがあり、内径を調節出来そうに見える。けれど、縮めてはならないという。『天使の道』と呼び、祖母は必ず、切れた方を表に填めた。
「どうして、ちゃんと丸じゃないの?」
欠けた環は、三日月に似て心細い。手持無沙汰にくるくる回し、半ば縋る気持ちで尋ねた。
「完全や永遠は、人には過ぎたものよ」
病床の祖母は、隙間風の音で微笑った。憂いも恐れもない満ちた表情で、私の髪を撫ぜ、私の辿れない何処かを追っていた。
「肌身離さず持っていなさい。きっと護って下さるわ」
程なく、祖母は旅立った。
私は黒い服を着て、祖母が閉じられた箱を見下ろしながら、ぶかぶかの指輪を、節くれた指に戻したくてならなかった。天へ上る煙を、拳を固めて睨んだ。
目の前のこの子も、同じ事を思うだろう。
解る日が来るのは、遥か先の話。
金環の切れ間を通り、髪に結ばれた光輪に、静かに手を添えた。
金環に切れがあり、内径を調節出来そうに見える。けれど、縮めてはならないという。『天使の道』と呼び、祖母は必ず、切れた方を表に填めた。
「どうして、ちゃんと丸じゃないの?」
欠けた環は、三日月に似て心細い。手持無沙汰にくるくる回し、半ば縋る気持ちで尋ねた。
「完全や永遠は、人には過ぎたものよ」
病床の祖母は、隙間風の音で微笑った。憂いも恐れもない満ちた表情で、私の髪を撫ぜ、私の辿れない何処かを追っていた。
「肌身離さず持っていなさい。きっと護って下さるわ」
程なく、祖母は旅立った。
私は黒い服を着て、祖母が閉じられた箱を見下ろしながら、ぶかぶかの指輪を、節くれた指に戻したくてならなかった。天へ上る煙を、拳を固めて睨んだ。
目の前のこの子も、同じ事を思うだろう。
解る日が来るのは、遥か先の話。
金環の切れ間を通り、髪に結ばれた光輪に、静かに手を添えた。
ファンタジー
公開:19/06/27 17:00
アクセサリー・シリーズ③
天使の輪
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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