記憶

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その島は1日かけて原付バイクでまわれるほどの大きさ。

海沿いに映える金の稲穂。潮混じりの風をいっぱいにうけて走る。途中「わー!」と意味もなく叫ぶ。

小さな珈琲とおやつのお店で、いつものドーナツとマフィンを。

滝の近くではミストを浴びて。

お気に入りの海岸で寄り道して貝殻拾い。

林道を通った時には、毛繕いやお食事中の動物達が一斉にこっちを見て、いかにも仕方ないなあと言った様子で道を開けてくれた。

それがちょっと可笑しくて。「すみませーん」と声に出して、その間を通りすぎた。ここでは動物達の時間が優先される。


「…お客様、時間です。」
声に一瞬で、現実へ意識が引き戻された。

店を出て、『寝呼屋』の看板を振り返る。

少し遠い記憶を思い返したい時、私はここを利用する。

過ぎた時は戻らないけど、振り返る事はできる。

景色もだけど、それをどう感じたか思い出せれば、私は次に進める。
公開:19/06/27 00:11
更新:19/06/27 23:25

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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