そろばん猫

マスターが熟練の手つきでシェイカーを振る。そんなことが気にならなくなるような事件が隣で起きていた。
猫がマスターと同じポーズで算盤を振っていたのだ。
「あれ、何？」
「飼い主に似たんじゃね」
ジャッ！
マスターに合わせて猫も算盤を振るのをやめた。
「お待たせしました。マティーニです」
ズァッ！
猫はグラスを受け取ると算盤に飛び乗り、スケボーのように転がしてやってきた。
「おお！」
連写した。もっとカラフルなものにしたらインスタ映えしたであろう。
「そこまでだ！算盤を用途と違う目的で使うとは不届き千万！」
店内に怒声が響く。入り口には算盤を背負った修行僧が立っていた。
「やれやれ、前の飼い主が飛んだ失礼を」
猫が算盤を振り払い、修行僧に向けた。
「勝負なら受けますよ、師匠」
「いざ尋常に勝負！」
二人の算盤に火花が散る。
「ご破算願いまして……！」
ちょっとまってこの展開ついていけない。